― チルゼパチド(マンジャロ)中止後の体重再増加と心代謝リスク、そして「アフターGLP-1」という新しい減量戦略 ―
GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド:マンジャロなど)は、近年の肥満治療を大きく変えました。
これまで達成が難しかった20%前後の体重減少を、薬物療法のみで実現できる時代が到来したのです。
しかし、多くの患者さんが次に直面するのが、
「この治療を、いつまで続けるのか?」
「やめたら、どうなるのか?」
という問いです。
2025年11月、その問いに対して極めて重要な答えを示す論文が、米国の一流医学誌JAMA Internal Medicineに掲載されました。
本コラムではその最新エビデンスを解説するとともに、
当院が提唱している「アフターGLP-1」という新しい減量医療の考え方について詳しくご紹介します。
肥満は「一過性の問題」ではなく慢性疾患である
肥満は、自己管理の失敗ではありません。
高血圧、脂質異常症、糖尿病、心血管疾患、さらには一部のがんリスクとも関連する、慢性疾患です。
そのため、肥満治療の本質的な目標は、
- 体重を減らすこと
- それを維持すること
- 心代謝リスクを長期的に下げ続けること
にあります。
GLP-1治療は、このうち「減らす」フェーズにおいて非常に強力な武器ですが、
「維持」や「その後」まで自動的に保証してくれる治療ではない
という点が、今回の研究で明確になりました。
最新研究:チルゼパチド中止後、何が起きていたのか
この論文は、チルゼパチドを用いた大規模臨床試験 SURMOUNT-4試験 の事後解析です。
研究のポイント
- 36週間チルゼパチドを使用し、体重を10%以上減らすことに成功した肥満患者
- その後、薬を中止して1年間追跡
- 体重の再増加率と血圧・脂質・血糖などの心代謝指標を詳細に解析
結果①:8割以上が「有意なリバウンド」を経験
チルゼパチド中止後1年で、
- 82.5%が、減った体重の25%以上を再増加
- 約半数が50%以上のリバウンド
- 約4人に1人が75%以上のリバウンド
- 一部では、治療前より体重が増加
という結果でした。
つまり、
「薬をやめても自然に維持できる人」は、例外的存在
であることが示されたのです。
結果②:「体重」だけでなく「体の中」も戻っていく
さらに重要なのは、体重以上に体内環境でした。
体重再増加が大きいほど、以下の指標が段階的に悪化していました。
- 腹囲(内臓脂肪)
- 収縮期血圧
- 非HDLコレステロール
- HbA1c
- 空腹時インスリン、インスリン抵抗性
特に、
- 体重再増加が25%を超えると
GLP-1治療で得られた心代謝改善効果が明確に失われ始める - 75%以上再増加した群では
多くの指標が治療前レベルまで逆戻り
していました。
「25%リバウンド」は医学的な分岐点
この研究は、臨床的に非常に重要なメッセージを含んでいます。
体重再増加25%が、健康リスク悪化の分岐点になりうる
という点です。
「少し戻っただけだから大丈夫」
「また薬を再開すればいい」
そう単純ではないことが、科学的に示されました。
当院が提唱する「アフターGLP-1」という考え方
この研究結果を踏まえ、当院では以前から
「アフターGLP-1」 という概念を重視しています。
アフターGLP-1とは
GLP-1治療を
ゴールではなく“フェーズ1” と位置づけ、
その後の人生を見据えた減量・維持戦略を設計する考え方です。
重要なのは、
「やめるか・続けるか」の二択ではない
という点です。
当院が推奨しているアフターGLP-1戦略
① 薬を「一生続けなくていい」選択肢を作る
GLP-1治療を一生続けることに、
- 経済的負担
- 副作用への不安
- ライフステージ変化(妊娠、加齢など)
を感じる方は少なくありません。
アフターGLP-1戦略の目的は、
「薬をやめても維持できる選択肢を持つこと」です。
② 内視鏡的減量治療で「構造を変える」
次に重要なのが、
薬に頼らず体重を支えられる身体構造を作ることです。
当院では、
- ESG(内視鏡的スリーブ形成術)
- MEGA(POSE 2.0 Double Helix など)
といった内視鏡的減量治療を、
アフターGLP-1戦略の中核に位置づけています。
これは、
- 胃容量の減少
- 胃排出動態の変化
- 食行動の再学習
を通じて、「戻りにくい体」を作る治療です。
③ 完全にやめるのではなく「使い分ける」
当院では、
- 維持期の低用量GLP-1
- 必要な時期だけの再導入
といった、柔軟な使い方も推奨しています。
「続ける or やめる」ではなく、
「どう使うか」が重要です。
この研究が教えてくれる本当のメッセージ
このJAMAの論文は、
GLP-1治療の失敗を示しているのではありません。
むしろ、
- GLP-1は非常に優れた治療である
- しかし、長期設計なしでは効果は続かない
という現実を、冷静に示しています。
まとめ:減量は「人生設計」である
- チルゼパチド中止後、8割以上が有意な体重リバウンド
- 体重再増加25%を超えると、心代謝リスクが再上昇
- 肥満治療に必要なのは「一時的成功」ではなく持続可能性
- アフターGLP-1という視点が、これからの減量医療の鍵
当院では、
「薬だけに頼らない」
「でも薬を否定しない」
現実的で、続けられる減量医療を提供しています。
掲載誌情報
Horn DB, et al.
Cardiometabolic Parameter Change by Weight Regain on Tirzepatide Withdrawal in Adults With Obesity: A Post Hoc Analysis of the SURMOUNT-4 Trial
JAMA Internal Medicine
Published online: November 24, 2025
DOI: 10.1001/jamainternmed.2025.6112







