多くの人が「体重＝摂取カロリー−消費カロリー」という単純な数式で説明できると考えています。
しかし、実際の人間の体はそんなに単純ではありません。
ハーバード大学のクリストファー・C・トンプソン教授（内視鏡的肥満治療の世界的権威）による最新の科学的解説では、体重は脳・ホルモン・神経のネットワークによって精密に調整される“設定値（set point）”のもとで維持されていることが明らかになっています。
「体重設定値」とは何か？〜あなたの脳が体重を守る理由
体はまるで「サーモスタット」のように働きます。
体重が減ると脳はそれを「異常事態＝飢餓の危険」と判断し、代謝を落とし、食欲を強めて体重を元に戻そうとします。
つまり、体は生存を守るために“元の体重に戻す防御反応”を起こすのです。
この設定値（または防御範囲）は、脳の視床下部でコントロールされています。
視床下部は、レプチン・インスリン・グレリンなどのホルモン情報を受け取り、食欲とエネルギー消費を調整する「体重の司令塔」です。
短期と長期、2つのコントロールシステム
体には2種類の制御システムがあります
- 短期的システム：胃や腸、迷走神経が関わり、「今どれだけ食べるか」を決める。
- 長期的システム：脂肪量やホルモンをモニタリングし、「どの体重を維持するか」を決める。
長期システムでは、脂肪細胞から分泌されるレプチンが重要な役割を担います。
レプチンは「体にどれだけエネルギーが蓄えられているか」を脳に伝える“燃料計”のような存在です。
しかし、肥満状態が長く続くと脳がレプチンに反応しにくくなり（レプチン抵抗性）、「まだ足りない」と誤認して食欲を増やし、代謝を下げてしまうのです。
これが、リバウンドの生物学的な根拠です。
「頑張っても痩せない」のは意志の問題ではない
体重が減ると、体は自動的に安静時代謝量（RMR）を下げるようにプログラムされています。
この現象は「適応熱発生（adaptive thermogenesis）」と呼ばれます。
アメリカのテレビ番組『The Biggest Loser』参加者の研究では、6年後も参加者の代謝が1日あたり約500kcalも低下したままだったことが分かりました（Hall et al., Obesity, 2016）。
つまり、体は時間が経っても「元の体重を守る」方向に働き続けるのです。
このように、ダイエットの停滞やリバウンドは努力や意志の弱さではなく、生理的な防御反応なのです。
肥満は「意志の問題」ではなく「脳とホルモンの病態」
近年、肥満は単なる生活習慣ではなく、慢性的なホルモン・神経・代謝の不均衡として捉えられています。
特に注目されているのが、脳の視床下部ネットワークの機能異常とレプチン・インスリン抵抗性です。
これらが崩れると、「食欲を抑えられない」「すぐに太る」「代謝が落ちている」といった状態が持続します。
この状態をリセットするには、単なる食事制限ではなく、医学的介入による“設定値の再調整”が必要です。
体重設定値を「下げる」ための新しい治療法
現代の肥満治療では、こうした設定値を下げることを目指した科学的アプローチが進化しています。
- GLP-1/GIP受容体作動薬（マンジャロ・ウゴービなど）
腸ホルモンを介して食欲を抑制し、脳の満腹シグナルを強化。 - 内視鏡的減量術（ESG／MEGA／GMAなど）
胃の容量を縮小し、胃から脳へのフィードバックを変化させることで、長期的なエネルギーバランスを再設定。 - ボツリヌス胃内注射療法
胃の運動を抑制し、早期満腹感を高めることで摂取量を自然に減らす。
これらの内視鏡的肥満治療（Endoscopic Bariatric Therapy：EBT）は、 手術を必要としない「低侵襲で安全な選択肢」として注目されています。
「東京たかはしクリニック練馬院」のアプローチ
当院では、日本初となる内視鏡的スリーブ状胃形成術（ESG）やMEGA（POSE 2.0）、胃ボトックス療法などを組み合わせ、患者一人ひとりの体重設定値を科学的にリセットする治療を行っています。
単なる「減量」ではなく、ホルモン・代謝・脳の仕組みを整える医療的アプローチこそが、リバウンドを防ぎ、持続的な健康体重を実現する鍵です。
まとめ：持続的な減量は「体の仕組みを理解すること」から
あなたの体は、生き延びるために「体重を守る」よう設計されています。
そのため、カロリー制限だけでは限界があります。
成功する減量とは、生物学的システムに逆らうのではなく、うまく利用して再調整すること。
内視鏡的治療や最新の薬物療法は、この“設定値の壁”を乗り越えるための強力なツールです。
